ここのところ、喰い物ネタばかりだが、私の田舎に「どりこの饅頭」という名物がある。ウチの隣にある大正元年創業のパン屋さんで売っているのだが、盆や正月には帰省客が必ず買って帰るほど有名なお菓子。というのも、この店で昭和20年頃から製造販売しているので、地元の人なら誰でも一度は食べたことがある味。懐かしさもあるのかもしれない。
この「どりこの」は「どりこ(の)」ではなく、「どりこの」自体が一つの単語。東京の田園調布に「どりこの坂」という桜の名所がある。昭和の初め、坂の付近に「どりこの」という清涼飲料水を開発した医学博士が屋敷をかまえていたことから「どりこの坂」と呼ばれるようになったという。
清涼飲料水の「どりこの」は、80歳以上の人なら誰でも知っている有名な飲み物だった。今で言う、薄めて飲む栄養ドリンクみたいなモノで、なんと講談社が販売元だった。出版社が清涼飲料水?
昭和の初めには新聞・雑誌に大々的に宣伝され『專賣特許・高速度滋養料・どりこの』『日本の誇り!世界的大發明!』『朝夕一杯のどりこのは心氣を爽快にし元氣を百倍す!』『醫學界權威擧って激賞』『天下驚嘆の大賣行・滋養飲料界の大王』『昭和の寵児!どりこの時代來る』などと大袈裟なコピーが掲載されていたらしい。
味については『比類なき美味!』『舌端に躍る淸新な美味!』『甘露!甘露!何にたとへん、この味!この香!初夏の飮料としてこれに勝るもの斷じてなし!』『上品な甘味、高尚な香り、正に味覺の王者』だという。
当時は薬屋さんにも置いてあり、「血色がよくなった」「子供のカンの虫がおさまった」「便秘がなおった」「勉強ができだした」などという反響があったようだ。私が子供の頃、もうすでに売られていなかったが、「どりこの、あります」という看板が向かいの薬局に残っていたことを覚えている。「どりこの」は戦争で砂糖が統制されたため、昭和19年で製造中止になってしまった。
名物の「どりこの饅頭」には、最初から「どりこの」は練り込まれていなかったが、甘く滋養があるという意味で名付けられたのかもしれない。あっさりした甘みの小手忙を使った黄身アンを「どりこの風味」の皮で包んで焼いてある。我が街の自慢の一品。老舗の「南沢菓子舗」の場所は、私の家の隣です。と言ってもわからないか。
意味のわからない名前といえば「ドモホルンリンクル」。文字を並べ替えると「ホルモンドリンク」、製造元が「再春館製薬所」。ん?まるで強壮剤を連想するネーミング。
気になるので調べてみた。ドモホルンリンクルのドモ「Domo」はラテン語で「抑制」、ホルン「horn」はドイツ語で「角層」、リンクル「Wrinkle」は英語で 「シワ」を意味する。年齢とともに衰えてゆく肌の悩みを抑制したいという気持ちを込めて「ドモホルンリンクル」と命名されたそうだ。ラテン語とドイツ語と英語の合成語。小林製薬にはない発想だなあ・・・