昔ながらの水銀体温計、最低でも5分は脇に挟んでジーッとしているのはツライ。電子体温計の場合、ほぼ1分。しかも計測が終わると、ピピッという音で知らせてくれるスグレモノ。
昨年11月に10日間ほど入院したが、その電子体温計のピピッとなる音が聞こえないことに気づいた。看護師さんに渡された体温計を脇に挟んでいると「はい、鳴りました」と言われるが、自分ではまったく気づかない。朝の検温を自分で記録しようと脇に挟むが、いつまで経ってもピピッといわず壊れてんじゃないのと思うがちゃんと計れている。
テレビの音量が以前より大きくなっているのはわかっていたが、まさか聞こえない音があるなんて思いもしなかった。退院後、体温計を使うこともなく不自由なく過ごしていたが、なんと「ためしてガッテン」で「難聴が認知症の原因」という番組を視てしまった。
内耳にある蝸牛という器官に音の振動を感じる「有毛細胞」という毛が並んでいるらしい。この細胞は音を電気信号に変えて脳に伝える働きをするが、年齢と共に毛が減少し高齢になると高い音が聞こえづらくなると。
まさに、これだあ。原因は、毛だったのかあ。
じゃあ、どうしようもないじゃん。と開き直っていたが、耳鼻科で耳掃除をしてもらったら聞こえるようになるかもと家内が勧めるので、淡い期待を胸に受診。耳の中はキレイですと。ヘッドフォンをかけて聴力検査。低域に異常なし、中域がやや聞こえづらく高域はかなり聞こえてないという結果。「毛ですか?」と聞くと「毛です」。「対策は?」と聞くと「ありません」。低域が正常なので補聴器を使うと、その部分だけ大きくなって余計聞こえにくくなるらしい。
淡い期待を裏切られ、結構ショック。何よりもイイ音で聴きたいと長年連れ添ってきたオーディオ機器。ジャズでシンバルの響きを如何に生音に近づけるか、自然で伸びやかなベースの響き、つばきが飛んでくるようなサックスの音色の臨場感etc.いろいろと無理難題をシステムに求めてきたが、期待に応えてくれても自分が聴こえてないんじゃ意味がない。実に寂しく悲しい。ということは必要ないじゃん。結局、ヤケになってMcIntoshのパワーアンプとコントロールアンプ、Altecのスピーカーを手放すことに。
手元に残ったのは、レコードとCD、レコードプレーヤー、CDプレーヤー、サブ機のAccuphaseのプリメイン。スピーカーがないので、しばらく音のない生活が続いていたが、今は倉庫となっている1階の旧診療室、待合室、院長室、医局員室それぞれの天井にBGM用スピーカーが埋めてあることに気づいた。
開業以来30数年間、休診日以外毎日鳴っていたスピーカーだが、移転後8年ほどは全く音出しなし。脚立に登り天井に固定されたナショナルのマークがついたカバーを外すと、薄いバッフルに固定されたスピーカーが出てきた。スピーカー本体はサランネットを兼ねた薄く黒い紙で包まれているため埃をかぶることもなく意外とキレイ。松下製の六半いわゆる16cmのフルレンジ、Hi-eff EAS-16P90SNと書いてある。マグネットが小さいのでオーディオ用というより、壁や天井に埋めて使用する館内放送用のものらしい。
1階の天井から回収したのは全部で5個。とりあえず音が出りゃイイ訳で一番簡単に平面バッフルに組み込むことに。平面バッフルというのは、穴を開けた板にスピーカーを取り付けただけのもの。板のサイズは大きければ大きいほどよく、いろいろと面倒な計算式があるのだが、いっさい無視。今や木工所と化した技工室にストックしてある端材を加工して自立できるように工作。チャチャチャと半日仕事で完成。
40年前の放送用スピーカー、小ぶりの板の平面バッフル、期待するほうが無理。わかっていても一発めの音出しは常にワクワク。
ベニー・ゴルソンのスターダストというアルバム。ウーン、ぜーんぜんイイわ。フレディ・ハバードのフューゲルホーンが前に躍り出てくる。たしかにロン・カーターのベースに迫力はないが、なんたって16cm。もともと高域が聴こえにくいせいか、逆に全体としてはバランスが取れている。館内放送用ということでレンジが狭くアナウンスやボーカルの帯域が明瞭に聴こえるよう特化しているのかも。また平面バッフルでボックスがないため、今風のスピーカーのように低音に負荷をかけて強調せず素直で自然な響きが広がる。これはこれでアリ。結構、音楽が楽しめるスピーカー。40年経ってもこの音質を維持できる松下通信工業、恐るべし。
レンガで転倒防止、ターミナルなしのケーブル直付け。洗濯バサミでケーブル固定。
耳のイイ若い人が聴くには物足りないかもしれないが、歳で毛が薄くなった耳にはちょうどイイ。音楽が心地イイ。レコードやCDまで手放さなくてヨカッタなあ。
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