「夢の共演に感激!」でも書いたが、大勢の有名アーティストが一堂に会して演じる「チャリティ・アルバム」が好き。お得感満載というだけでなく、ソロ活動では味わえないパフォーマンスの意外性を楽しめるから。同じように「デュエット・アルバム」も好き。アーティストがいろいろなゲストを招いてデュエットを唄う。有名どころでは、フランク・シナトラの「デュエッツ」「デュエッツⅡ」。シナトラにかぎらずデュエット・アルバムは、晩年を迎え円熟期に達してからリリースされることが多い。ポッと出の新人じゃ誰も相手にしてくれないだろうし、実力・人気はもちろんのこと多くの人から尊敬され慕われる人間性が備わって初めて成し得るもの。特に印象深いのは人生最後の吹込みとなったレイ・チャールズの遺作「ジーニアス・ラヴ〜永遠の愛」が8部門でグラミー賞に輝いたこと。また、カントリーの大御所ウィリー・ネルソンも70歳を祝う記念コンサートで豪華ゲストらとコラボレーション。エルヴィス・コステロ、ダイアナ・クラール、ノラ・ジョーンズ、レイ・チャールズ、レオン・ラッセル、エリック・クラプトンからポール・サイモン、スティーブン・タイラーなどなど、まだまだ出るわ出るわ大物揃いの「Willie Nelson & Friends:Live & Kickin」

 15年ほど前、地元のレンタルビデオ屋さんに行った時のこと。レンタルCDコーナーの一角にCDを売っている棚があり、何気に眺めていたらトニー・ベネットのアルバム。同じものが25枚並んでいる。値札をみて

「ビックリ?!」

100円。あのトニー・ベネット様のアルバムがナント1枚100円。

 高校生の頃、深夜放送のラジオから流れる「アノ世界のベンチャーズが演奏する加山雄三の君といつまでも」を初めて聴いた瞬間の感動にも似た驚き。というか、トニー・ベネットがこんな場末のレンタルCD屋の片隅で酷い仕打ちを受けていることに耐えられず、許せないという衝動で全部買い占め。内容も確認せずカゴに入れた。

 レンタル用のCDが古くなり、初期投資を回収し元をとったので売りに出したのかと思いきや、インポート盤の証であるラベルが印刷された粘着テープでCDケースの上がシーリングされている。まったくの未開封モノ。ひょっとしたら大量に仕入れたが、ただの一度もレンタルされることなく処分されることになったのか。そんなに人気がないのか。事情はわからないが1枚100円なんて、あまりにも可哀想。お店の人の怪訝な顔をよそに総額2,500円で25枚の同じCDをお持ち帰り。

 ずばり、これはトニー・ベネット版の「デュエッツ」。シナトラの「デュエッツ」をプロデュースしたフィル・ラモーンが本作のプロデューサー。トニー・ベネット、75歳の記念盤。豪華な共演者とともにブルースを唄うデュエット・アルバム。ダイアナ・クラール、スティービー・ワンダー、B.B.キング、レイ・チャールズ、ボニー・レイット、ビリー・ジョエル、ナタリー・コール、k.d.ラング、シェリル・クロウなどなど。2003年には、第45回グラミーで「最優秀トラディッショナル・ポップ・ボーカル・アルバム賞」というキラ星アルバム。

 25枚もあるが、自分用に封を開けるのは1枚で充分。その後、音楽が好きそうな、というかトニー・ベネットが好きそうな人を(勝手な想い込みで)見つけてはプレゼント。今となっては誰に渡したのか記憶にないが、先日たまたまCD棚に未開封が9枚残っているのを見つけた。

Playin With My Friends: Bennett Sings the Blues

トニー・ベネット・ウィズ・マイ・フレンズ

 平面バッフルスピーカーをセッティングして以来、ヴォーカルものをよく聴くようになり、改めてトニー・ベネットの魅力にハマっている。ちなみにamazonで検索してみると、「インポート盤」が3,980円、「国内盤」が2,408円となっている。私が15年前に衝動にかられて投資した2,500円は、99,500円に膨らんだことになる。実に40倍、バブルだあ。さすが夢を売るアーティスト。別の意味でも夢を見させてくれたような気が。

 昔ながらの水銀体温計、最低でも5分は脇に挟んでジーッとしているのはツライ。電子体温計の場合、ほぼ1分。しかも計測が終わると、ピピッという音で知らせてくれるスグレモノ。

 昨年11月に10日間ほど入院したが、その電子体温計のピピッとなる音が聞こえないことに気づいた。看護師さんに渡された体温計を脇に挟んでいると「はい、鳴りました」と言われるが、自分ではまったく気づかない。朝の検温を自分で記録しようと脇に挟むが、いつまで経ってもピピッといわず壊れてんじゃないのと思うがちゃんと計れている。

聴力検査 テレビの音量が以前より大きくなっているのはわかっていたが、まさか聞こえない音があるなんて思いもしなかった。退院後、体温計を使うこともなく不自由なく過ごしていたが、なんと「ためしてガッテン」で「難聴が認知症の原因」という番組を視てしまった。

 内耳にある蝸牛という器官に音の振動を感じる「有毛細胞」という毛が並んでいるらしい。この細胞は音を電気信号に変えて脳に伝える働きをするが、年齢と共に毛が減少し高齢になると高い音が聞こえづらくなると。

 まさに、これだあ。原因は、毛だったのかあ。

 じゃあ、どうしようもないじゃん。と開き直っていたが、耳鼻科で耳掃除をしてもらったら聞こえるようになるかもと家内が勧めるので、淡い期待を胸に受診。耳の中はキレイですと。ヘッドフォンをかけて聴力検査。低域に異常なし、中域がやや聞こえづらく高域はかなり聞こえてないという結果。「毛ですか?」と聞くと「毛です」。「対策は?」と聞くと「ありません」。低域が正常なので補聴器を使うと、その部分だけ大きくなって余計聞こえにくくなるらしい。

アルテック 淡い期待を裏切られ、結構ショック。何よりもイイ音で聴きたいと長年連れ添ってきたオーディオ機器。ジャズでシンバルの響きを如何に生音に近づけるか、自然で伸びやかなベースの響き、つばきが飛んでくるようなサックスの音色の臨場感etc.いろいろと無理難題をシステムに求めてきたが、期待に応えてくれても自分が聴こえてないんじゃ意味がない。実に寂しく悲しい。ということは必要ないじゃん。結局、ヤケになってMcIntoshのパワーアンプとコントロールアンプ、Altecのスピーカーを手放すことに。

 手元に残ったのは、レコードとCD、レコードプレーヤー、CDプレーヤー、サブ機のAccuphaseのプリメイン。スピーカーがないので、しばらく音のない生活が続いていたが、今は倉庫となっている1階の旧診療室、待合室、院長室、医局員室それぞれの天井にBGM用スピーカーが埋めてあることに気づいた。

 開業以来30数年間、休診日以外毎日鳴っていたスピーカーだが、移転後8年ほどは全く音出しなし。脚立に登り天井に固定されたナショナルのマークがついたカバーを外すと、薄いバッフルに固定されたスピーカーが出てきた。スピーカー本体はサランネットを兼ねた薄く黒い紙で包まれているため埃をかぶることもなく意外とキレイ。松下製の六半いわゆる16cmのフルレンジ、Hi-eff EAS-16P90SNと書いてある。マグネットが小さいのでオーディオ用というより、壁や天井に埋めて使用する館内放送用のものらしい。

 1階の天井から回収したのは全部で5個。とりあえず音が出りゃイイ訳で一番簡単に平面バッフルに組み込むことに。平面バッフルというのは、穴を開けた板にスピーカーを取り付けただけのもの。板のサイズは大きければ大きいほどよく、いろいろと面倒な計算式があるのだが、いっさい無視。今や木工所と化した技工室にストックしてある端材を加工して自立できるように工作。チャチャチャと半日仕事で完成。

平面バッフルスピーカー自作

 40年前の放送用スピーカー、小ぶりの板の平面バッフル、期待するほうが無理。わかっていても一発めの音出しは常にワクワク。

 ベニー・ゴルソンのスターダストというアルバム。ウーン、ぜーんぜんイイわ。フレディ・ハバードのフューゲルホーンが前に躍り出てくる。たしかにロン・カーターのベースに迫力はないが、なんたって16cm。もともと高域が聴こえにくいせいか、逆に全体としてはバランスが取れている。館内放送用ということでレンジが狭くアナウンスやボーカルの帯域が明瞭に聴こえるよう特化しているのかも。また平面バッフルでボックスがないため、今風のスピーカーのように低音に負荷をかけて強調せず素直で自然な響きが広がる。これはこれでアリ。結構、音楽が楽しめるスピーカー。40年経ってもこの音質を維持できる松下通信工業、恐るべし。

平面バッフルスピーカー自作

 レンガで転倒防止、ターミナルなしのケーブル直付け。洗濯バサミでケーブル固定。

平面バッフルスピーカー自作

 耳のイイ若い人が聴くには物足りないかもしれないが、歳で毛が薄くなった耳にはちょうどイイ。音楽が心地イイ。レコードやCDまで手放さなくてヨカッタなあ。

関連:平面バッフルスピーカー(2)
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