緑が深くなるこの時期、葉が部分的に真っ白になり遠くからでもよく目立つ植物がある。「マタタビ」です。花の咲く時期になると枝先の葉が白くなることから、葉影に隠れる花に虫を誘うための戦略と云われている。たしかに葉の影に咲く白い花は、小さく目立たない。白い化粧をまとったマタタビの葉は、まるで粉を吹いているように見えるが触っても白い粉はつかない。表面が光を反射し白く見せているらしい。
植物は少しでも多く子孫を残すため、いろいろな工夫を身につけてきた。受粉のため、いかに虫をおびき寄せるかというのは大きなテーマの一つ。目立つように大きな花を咲かせたり、小さな花を沢山咲かせて大きな花に見せ掛けたり、花の色をアピールしたりと、それぞれの戦略は個性的。いわゆる「虫がつく」という言葉で異性間の結びつきを表現するが、結局は植物も動物もひいては人間も如何にセックスアピールするかで子孫繁栄を競うのは同じ次元の話。貴方が異性の目を引くために化粧をしたりファッションで華麗に変身しようとする行為が、まさにマタタビの白い葉っぱ。ちなみに私の髪が白くなったのは、華麗な変身ではなく加齢による変化。
今は、目立たず隠れて咲く小さな白い花だが秋には実をつける。「猫にマタタビ」の言葉通り、果実はネコの大好物で酔っ払い状態になることで知られている。マタタビ酸という物質を含むため、猫類のライオンやトラでさえ匂いを嗅ぐだけで恍惚状態になるという。なんとも羨ましいかぎり、よほど気持ちがイイんだろうなあ。私の知る限りでは、匂いを嗅ぐだけで恍惚感に浸れる物質に巡り会ったことがない。これが世に言うイケナイクスリや葉っぱなのだろうか。「人間ヤメマスカ?」の世界の話なら、猫たちもマタタビをヤリ過ぎると猫じゃなくなってしまう可能性がある。それってヤバイじゃん。
マタタビの実は完熟すると甘くなるが、大抵は甘くなる前に収穫され塩漬けやマタタビ酒に利用される。疲れた時に甘い実を食べると「また旅ができる」というのが語源らしく、またアイヌ語のマタタムビ(マタ=冬、タムビ=亀の甲)が変化したという説もある。マタタビ酒は、滋養強壮、痛風、リュウマチ、冷え性、腰痛に効くというが、どうせ呑むならキウイ酒の方が旨いと思う。キウイとマタタビは同じ種に属する仲間。
マタタビの実は秋だが、こちらは夏に収穫する木の実。昨年不作だった夏グミが色づき始めた。なんといっても甘酸っぱいコンフィチュールは、この時期にしか味わうことのできない絶品のご馳走。以前、グミ味のグミを作ったが、今ひとつ商品化に踏み切るほどのデキには至っていない。というか、グミという菓子自体食べたいとも思わない。もうひとつ、これから収穫時期を迎える夏の味はポリフェノールの宝庫、マルベリーと呼ばれるヤマ桑の実。黒く完熟すると触るだけで落ちてくる。甘酸っぱくて旨いが口の中が紫色になり、食べてすぐ歯医者へ行くとビックリされること間違いなし。あの有名な童謡にも歌われている。♪夕やけ小焼けの赤とんぼ、負われて見たのは、いつの日か。山の畑の桑の実を小籠に摘んだは、まぼろしか。