稚内に初雪が降り、中山峠は5センチの積雪。道内各地で氷点下となった昨日以来、寒い日が続いている。午後休診、雨ではあるが野花南へ出掛けた。山荘入り口にクルマを乗り入れると、鹿と目が合い急停車。フロントガラス越しの私を見つめるように、20メートル程先でジッと動かない。そっとクルマを降り、近づくも我関せずで草を食んでいる。人慣れしてるはずはなく、私に危険な雰囲気を感じないのかもしれない。カメラを構えながら、少しづつ近づく。5メートル程になると林の中へ逃げ、その場からジッとこちらの様子をうかがっている。あまり刺激してもカワイソウなので、私も無視して自分の仕事「キノコ狩り」に取りかかる。
一回り後、カゴの中のボリボリ。ボリボリもアタリ年で群生状態。雨の中で小さなキノコを採るには手間が掛かり、だんだん面倒になるのが贅沢な悩み。ほぼイッパイになったカゴをかかえて山荘に戻ると、広場では先ほどの鹿が食事中。これだけ草を食べてくれるなら、草刈りなんてしなくてもいいのにと思いながら再度、カメラを構えて近づくが、やはり限度は5メートル。自分に危険が及ばない距離を見切っているのだろう。いつもは遠くから眺めるだけだが、こんなに近づいたのは初めて。ほとんど毎日、山をうろついている私の姿を鹿もどこかで眺めていて、私を山の中の一つの景色として捉えているのかもしれない。
お初のキノコ「マクキヌガサタケ」。キノコの女王と呼ばれる「キヌガサタケ」よりもレースのスカートが短い。どちらもスッポンタケ科に属し、先日見つけたスッポンタケの幼菌は「マクキヌガサタケ」である可能性が高い。この写真にはないが、先日のプヨプヨした幼菌の一部が根本を覆いツボになっていた。先っぽの黒いグレバは虫が舐め取って黄色になっている。どちらかと云えば古くなったキノコだが、悪臭のグレバが無くなった分、食べてみようかなという気にさせられる。傘を取り、スポンジ状の柄とレース状の網を食べる。
先日の幼菌は、あまりにも見た目が気持ち悪く手が出なかったが、今回は歯触りを想像して旨そうに思える。塩水で虫出しのあと熱湯で茹でこぼし、中華スープで煮る。熱を加えると少し軟らかくなったが、だいたい想像どおりの味。これ自体に味はなく歯触りと味付けを楽しむもので不味くはない。本格中華料理に出てきたら、その味付けでコリコリした食感を楽しめそう。
それにしてもエライのは、このキノコの繁殖方法。たいていのキノコは、胞子を飛ばし風に乗せて子孫を増やすが、傘の表面の独特の臭いで虫や小動物をおびき寄せ、舐めさせて胞子を遠くへ運ばせ子孫を増やす。人間には、イヤな臭いも虫にとっては魅力的なのだろう。生き延びるためのシタタカな知恵は進化の証。