1968年、ザ・ビートルズが設立したアップル・レコード。ビートルズやメンバーのソロ活動をレコーディングしたのはもちろんだが、あらゆるジャンルのアーティストのレコードを出版した。その中でもビートルズに次いで有名なのは、ビートルズの弟分と云われた「バッドフィンガー」。ニルソンやマライア・キャリーなど多くのミュージシャンにカヴァーされた不朽の名作「ウィズアウト・ユー」は、彼らのオリジナル。ジェームス・テイラーのソロ・デビューは「アップル・レーベル」だったし、MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)もアップルに2枚吹き込んでいることは、あまり知られていない。
ビートルズの曲を含めて、アップルレコードの中で最も多くの日本人の記憶に残るのは「悲しき天使(Those Were The Days)」ではないだろうか。
アップルでのメリー・ホプキンの曲だが、森山良子らがカヴァーして流行り、後に「花の季節」というタイトルで中学音楽の教科書に掲載された。原曲はロシアの歌謡曲だが、哀愁漂うメロディは一度聴くと忘れられない。
私が20歳前後にメリー・ホプキンや森山良子で聴いた、この曲と再び巡り会うのは10年ほど経ってから。ススキノ玉光堂で買ったデクスター・ゴードンのアルバム「THE TOWER OF POWER!」を聴いたときのこと。B面最後の曲、どこかで聴いた懐かしいメロディだが、すぐにこれが「悲しき天使」だと気づかず、情感豊かに歌い上げるデックスに聴き惚れて何度も針を下ろしていた。それまで聴いていた力強い男臭さとは違う魅力のデックスに触れた瞬間だった。