猫とディープキス

 このところ、「決死の覚悟のチャレンジ」で連戦連勝という快挙を成し遂げている私だが、我が家にあっては、自分一人だけの孤独な闘いにすぎず、誰からも健闘をたたえる声援や賞賛の声すらあがらない。家内は絶対に冒険をしない。私が毒味をして「大丈夫だ」と言ってるにもかかわらず、絶対に箸をつけようとしない。

 だから、「オオツガタケのバター炒め」にしても「アイシメジのキノコご飯」にしても、想像するだけで口中にジュワーっとヨダレがあふれ出し、メクルメク快感の嵐に翻弄されそうになるくらい美味なる「焼きオオツガタケ」にしても、いっさい口にすることなく「ナンかあったらイヤだから。死ぬならアナタ一人にして」とホザいている。ただ唯一「ラクヨウキノコの味噌汁」だけは、オカワリするほど好きらしい。要は、私が採ってくるキノコを信用していないだけなのだ。というか、どうも私自身を信用していないフシがある・・・

 そんな家内でも、山のキノコの下処理はする。我が家では、洗ったキノコをスグに調理できる大きさに切りそろえ冷凍保存している。こうすると、いつでも好きなときに食べられるからだ。味噌汁でもキノコご飯でも炒め物でも、入れるだけでOKで超便利。ただし、出来上がったキノコ料理を食べるのは私だけなのだが・・・

 たまたま、冷凍庫を開けると冷凍キノコのフリーザーバックが沢山積んであった。何のキノコか確認しようと袋を見ると、マジックペンで「キノコ」と書いてある。さあすがぁ、中身がわかるように整理してあるんだ。エライじゃん。と思って、よくよく見ると中身はアイシメジなのだが、キノコという文字の横に不思議なマーク。「これ、なんだ?」と聞くと「毒キノコのマーク」という答えが。はあ・・?

 アンニャロー、俺が採ってきたキノコは全部毒だと思ってやがる。それで、いっさい口にしなかったわけだ。というより、ドクロの絵を描いたつもりらしいが、なんちゅうヘタクソな絵だ。これじゃドクロというより、手塚治虫の「ひょうたんつぎ」だ!

 昨日採ってきたニカワハリタケ、夕べのうちに茹で、スダチの搾り汁に砂糖を混ぜたシロップに漬けてある。あのプリプリ感からすると、ナタデココとかアロエとか寒天とかゼリーとか、はたまたコンニャクとかイロンナモノを連想してしまう。味はともかく、裏側が猫の舌のようにザラザラしているらしいのを見ると、口に入れた瞬間、猫とディープキスをしているような錯覚に陥ってしまいそうでコワイ。そんなモノを味わってしまったら、きっと悪夢にウナされるに違いない・・・

 ということで、このチャレンジはパスしようと半ば決めていたところ、日中、来客があった。折しもこのブログの数少ない愛読者の一人であり、あのキノコの結末がどうなったか非常に興味があるらしい。開口一番、「どう?食べた?どうだった?あの気持ち悪いキノコ」と、好奇心丸出しで迫ってくる。まだだというと「明日読むから、ちゃんと書いておいてよ」と言って帰っていった。

 エェーッ、結局、喰わなあかん羽目になってしまったあ・・・

 恐る恐るホンの一口噛んでみた。ん?ナニこれ?味はスダチの酸味と砂糖の甘みで普通に甘酸っぱくて旨い。この食感は、今まで経験したことがない。強いて言うなら柔らかいグミ。これはイケルわ。キノコ自体にまったくクセがなくシロップが染みこんでフルーティ、噛んだ断面は透明でモチモチ、完全なデザートだあ。言われなければキノコだとは思えない。世の中、見た目で判断してはイケナイという教訓のようなニカワハリタケであった。

 最近は、少しでも時間があると山荘を散策する。昼休みのほんの合間にボリボリを採ってきた。ボリボリは沢山生えているが、小さいので採るのが面倒になってくるのが贅沢な悩み。そんな中、かなり美味なタマゴタケを見つけた。毒キノコのベニテングダケや死亡例もある猛毒のタマゴタケモドキに似ているので要注意だが、柄の色と傘の裏の色が黄色いので区別できる。

 

 タマゴタケは素性がいい?キノコなので、本当は焼いて食べたいところだが、明日は出掛けて夜遅いので結局冷凍にした。後日、卵焼きに混ぜて焼いてみよう。だが、本当に間違いなく本物なんだろうなあ。

 まだまだ決死の覚悟のチャレンジは続く・・・

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