森山威男の魅力

 寒さに凍える雨続きのゴールデンウイーク、明けたとたんに春らしく温かく穏やかな日々。やっと函館に桜前線が上陸したらしいが、予報では今週末も雨模様。山荘での畑仕事はママならず、雪の重みで折れた木々の枝を片付け、どこへも出掛けずダラダラ過ごしていた。地球温暖化と云うが、間違いなく氷河期に向かっていることを肌で感じる北国の春。それでも、あと1週間もすると桜を連れて遅い春がやってくる。

 春眠暁を覚えずどころか、昼夜ひっくり返って連休を過ごしていた。本を読むか音楽を聴くか、のんびりユッタリと時間が流れてゆく。特にラジオ、アンテナ工事で格段に音が良くなったこともあって久々にエフエムにハマっている。エリア的にNHKFMオンリーだが、結構イイ番組が流れていて今でも真剣にJazzを流す姿勢に好感が持てる。他局のアサヒビールを冠につけるジャズ番組のように曲が途中でフェイドアウトされて消化不良を起こすこともない。「ハンサムJazz Live」「セッション2013」「ジャズ・トゥナイト」etc.

 5/5の夜に流れた「セッション2013」は最高だった。森山威男のライヴ「Small Orchestra」。森山は富樫雅彦に並ぶ天才ドラマー。フリージャズ期の山下洋輔トリオに参加。富樫亡き今、日本を代表するジャズドラマーだ。森山の演奏は、ライブにこそ魅力がある。その昔、学生時代を過ごした名古屋で他大学の学園祭に招かれた山下洋輔トリオのライブを聴きに行った。飛び散る汗、砕け散るスティック、先制攻撃にフェイント、息もつかせぬ掛け合い、そしてブレイク。まるでバトルのようなハーモニー。いやあ堪能したなあー。

 森山威男には演奏だけじゃなく、別の面でも魅力を感じている。以前、手に入れた「森」「山」というアルバム。南里文雄賞受賞を記念して同時発売された2枚のCDだが、そのライナーノーツに父親への愛情溢れる自作の散文が載っている。これを読んでしまうと、森山という人間の虜になってしまう。

森山威男/森 森山威男/山

*************(アルバム「山」のライナーノーツより)*************

山のように威厳のあった父のこと。

小学生のとき、全校の歯科検診があった。
歯医者の父は友達みんなの歯を見てあげていた。
「父は偉いんだなー」と思った。

中学生のとき、一度だけ父の自慢話を聞いた。
「大学生のとき、乗馬クラブで優勝してな。
みんなを銀座に呑みに連れていってなー」
と、そのときの記念のバックルをくれた。
うれしかった。

高校生のとき、父は俺を歯医者にしたかったらしい。
父にお願いをした。
「俺、ドラムをやりたいんだ。東京に習いに行かせてくれ」
「本当にそうしたいなら、やりなさい。心配するな」と言ってくれた。
死ぬ気でがんばろう、と思った。

芸大4年生のとき、卒業を楽しみにしていた父に言った。
「俺、いろいろ考えたけど、芸大やめる」
父は黙っていた。
つらかった。

ドラマーになっても父は俺をだめな息子だと思っていたらしい。
初めて俺の演奏を聞いた後、言った。
「そんなに汗をかいて、命っきり叩かんと生活できんのか」
大笑いした。

80歳を過ぎた父はテレビの前に正座して、
いつもじっと何かを考えていた。
ぽつりと言った。
「おとうちゃんは少し長生きしすぎちゃったな」
返す言葉がなかった。

父は医者の息子として厳格に育てられたらしい。
入院した父を久しぶりで見舞ったとき、
ふざけて「森山さん、ご飯は食べましたかー」と声をかけた。
父は、急いで正座して言った。
「はい、毎度おいしくいただいてます。ありがとうございます」
ふざけて、ごめんね。

入院中の父の耳元で「赤とんぼ」を歌ってあげた。
じっとしていた。山のように。

*************(アルバム「森」のライナーノーツより)*************

森のように静かだった父のこと。

東京で忙しくしていた父は、田舎暮らしが寂しかったらしい。
小学生のとき、暇な父は家の近くの川へよく魚釣りに連れて行ってくれた。
患者さんが来ると、母が土手の向こうから大声で叫んだ。
「あなたー、お客サンヨー!」
父は怒ったように、黙っていた。

父は話すよりも、行動のほうが早かった。
中学生のとき、夜中に物音で目がさめた。
開いていた雨戸から外を見ると、父が雨の中で一人立っていた。
「今、大きな地震があった」と言った。

父は怒っても静かだった。
高校生のとき、親をだましてお金をせしめ、パチンコをした。
玉をはじいている俺の後ろから「この台は出るか」と声がした。
片手に玉を持った父が隣の台に座った。
二度と親をだますまいと思った。

黙ってテレビを見ているときは何かを考えているらしい。
70歳を過ぎたとき、父が言った。
「俺は歯医者に向いてないような気がする」
「いまさら」と思った。

80歳を過ぎたとき、無口な父が力強く言った。
「威男!今からでも遅くはない。頑張れば二人で立派な狸になれる」
分からん。

入院中の父の耳元で「赤とんぼ」を歌ってあげた。
静かだった。森のように。

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