ときどき、ミスドでドーナツを買ってくる。定番のホームカットを見かけなくなったので、オールドファッション派。たまに色気を出してヤワラカ系を買うが、ドーナツとは程遠く喰った気がしない。そのオールドファッションでさえ満足感が得られないのは、子供の頃に食べたドーナツの記憶のせいに違いない。
ホットケーキミックスなんて便利なモノがなかった時代、我が家では小麦粉とフクラシ粉を使ってオフクロがドーナツを揚げてくれた。熱々の揚げたてを砂糖の入った紙袋に入れてフリフリするのが私の役目。砂糖をタップリまぶした甘いドーナツは、穴が大きかったり小さかったり形がイビツで大きさもバラバラ。大きなドンブリに山盛りのドーナツは、あっという間に私と弟のお腹の中に消えてしまった。1年に何度もあったわけではないが我が家でドーナツを揚げる日は、とてもリッチで幸せな気分を味わっていた。
アメリカ映画の警察官がドーナツを食べるシーンが多いのは「制服を着てパトカーで来店すると、ドーナツとコーヒーが無料」というダンキンドーナツの宣伝のせいらしい。日本でも「警察官立ち寄り所」という看板を掲げるコンビニや金融機関があるが、防犯対策に役立っているという。小説の中の話だが、ロバート・パーカーの私立探偵スペンサーシリーズでも、相棒ホークが揚げたてドーナツとコーヒーを買って、スペンサーの事務所へ持ってくるシーンが多い。
こんなとき想像するのは、オフクロが揚げてくれたあの熱々のドーナツ。きっと奴らは、あんな旨いものを喰ってるんだろうなと思うと無性にドーナツが食べたくなる。日曜の昼など時間がユッタリ流れるときは、ホットケーキミックスを使ってドーナツを揚げる。子供の頃のような感激はないが、ミスドにはない満足感を味わうことができる。