バスマット物語(パロディ)

 こんな古い作家ばかりで、今の人にはわからないだろうなぁ。

オリジナル(ZENA)
 湯上がりの濡れた肢体をそっとおくと、彼女の足のウラから秘部にかけて甘い戦慄がかけぬけた。

川端 康成
 風呂場の檜の戸を開けると脱衣所であった。部屋が湯気で白くなった。夜の帳に鳴く梟の声が止まった。向う側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落とした。雪の冷気が流れこんだ。もうそんな寒さかと島村は外を眺めながら、床に敷かれた毛氈の上へ足を一歩踏み出すと、寒々とした感触が闇に呑まれた。

横溝 正史
 金田一耕助のすすめで、私がこれから記述しようとするこの恐ろしい物語は、昭和十*年*月*日、浴室の扉が開いたところから始まった。事件の舞台となったこの村には湯*温泉という名で知られる湯治場があり、保養客を集めるのがこの辺りの村々の主ななりわいの道であった。浴室の扉が開けられたのは、夜八時ごろのことだった。私は、緋色の毛氈が敷きつめられている脱衣所に足を下ろした途端、つめたい戦慄が背筋をつらぬいて走るのを禁じえなかった。おお、それがこのまがまがしい事件の発端になろうとは、まだだれも気がついていなかったのである。

星 新一
 バスルームの扉を開けると、そこは脱衣所の筈だった。しかし、エヌ氏が、そこに見たものは、おどろいたことに宇宙空間のひずみの中にフワフワとただよう緑色のバスマットだった。エヌ氏は一歩その上に足を乗り出す。異次元へ吸い込まれるような感触が体の中心部へかけて走った。

五木 寛之
 金髪の娘がドアを開けて、浴室から出ようとした。充分に熟れた彼女の胸が、ジュンの目の前にあった。まっ白な肌と、甘酸っぱい匂い。ジュンが手をかして濃い葡萄酒色のバスマットの上へ立たせる。「スパシーボ」と、彼女が囁く。額に深くかぶさった金色の前髪の下から、ライラックの花のような素晴らしい色の目がうるんだようにのぞいている。ジュンが外を眺めると、白夜の季節を過ぎた空は黒くビロードのようで、温泉の浴場らしい赤煉瓦の建物が山裾に散らばっていた。(あの山の向うにモスクワがある)と、ジュンは思った。

川上 宗薫
 浮気してやろうか、と長江は思った。そして浴室のドアを開けた。長江がバスマットの上に足を下ろすと、目の前に若い女が坐っていた。長江は彼女を憶えている。そのチロチロとした感触を左手の指が憶えていた。裸になれば、見事な胸を持っているらしいことが、長江にはわかっていた。彼女は絶頂の感覚を知っているに違いない。こんな女を腕の中で抱きしめれば、さぞ抱き心地がいいだろうと想像を廻らしていると、女は立ってガラス窓を開けた。窓に手をかけるために爪先でのびあがったので、ミニスカートから豊なふとももが食み出して、長江の欲望を湧きたたせる。窓から雪が吹き込んだ。急な冷気のために鼻腔の奥が痒い感じを起こし、長江はクサメをこらえた。こんな時、彼の官能はきまって刺激されるのだった。長江は女のスカートに手を差し入れようとした。女の体がピクッとなった。そして「いや」といったが、女も昂ぶっていることを、長江は見てとっていた。

宇野 鴻一郎
 お風呂からあがったら、とっても気持ちよかったんです。あたし、エロチックな気持ちになってしまった。これは内緒なんだけど、お風呂に入るたんびに感じちゃうみたい。お風呂がいけないんです。お風呂に入ると、あたしいけないことを連想しちゃうんです。ああ、だれか逞しい男が入ってきてほしいなんて思ったりして。ドアをあけて、ピンクのバスマットに足をのせると、その柔らかい感触があたしの指先にからんだからだけど、ピクンと感じちゃったんです。もう立っていられなくて、その場にしゃがみこんじゃったんです。

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